言の綾

推敲の順番

書き上げたあと、どこから直すか。ここを間違えると同じ文章を何度も磨き直すことになります。推敲に才能は要りませんが、順番はあります。4段階を、大きい単位から順に見ていきます。

語から直すと、二度手間になりやすい

読み返して最初に目につくのは、語の重複や言い回しの拙さです。だから多くの人はそこから直します。ところがその段落が構成の見直しで丸ごと消えたら、磨いた時間は全部消えます。

組み立てる順番を入れ替えます。大きい単位から小さい単位へ。構成で場面を削り、残った場面の中で山を決め、段落の役割を整理して、最後に語を見る。この順なら、消える予定のものを磨かずに済みます。

もう一つ、順番と同じくらい効くのが間を置くことです。書いた直後は、自分の頭の中の情報で読んでしまうので、抜けている説明に気づけません。急ぐつもりで即日直すより、数日置いてから読み返すほうが速く済みます。

4段階を、この順で

1. 構成

場面の順番と、要る場面・要らない場面

直せていないサイン——面白いのに、なぜか読み進めてもらえない

この場面が無くても話は通るか

before 冒頭に、主人公の生い立ちを説明する場面がある

after 生い立ちは削り、必要な一行だけを後の会話に混ぜる

いちばん大きい単位から始めます。ここで場面を1つ削ると、その中の文章を磨いた時間が丸ごと消えます。逆に言えば、先に文章を磨くと二度手間になります。削る判断は、書いた直後だと下せません。書き手はまだ、その場面を書いたときの熱を覚えているからです。

2. 場面

1つの場面の中の、速度と起伏

直せていないサイン——全部が同じ調子で、山場が山場に見えない

この場面で、いちばん強く書くのはどこか

before 告白の場面で、心臓の音・涙・震える声を全部書いている

after 震える声だけ残し、前の二文は普通の動作に戻す

場面ごとに山を1つだけ決めて、そこ以外は落とします。強い表現が2つ並ぶと、どちらも弱くなります。速度は文の長さで作れるので、飛ばしたいところはまとめ、止めたいところは刻む。強度の設計は、この段階で決めておくと後が楽になります。

この段階でよむ「感情の強さを書き分ける」 →

3. 段落

地の文が何をしているか

直せていないサイン——読み返すと、どこを見ればいいのか自分でも分からない

この段落は、説明・描写・心情・時間のどれか

before 1つの段落に、部屋の説明・天気・心情・時間の経過が入っている

after 部屋と天気で1段落、心情で1段落に割り、時間は次の場面へ送る

1つの段落に役割を詰め込むと、どれも中途半端になります。役割が変わるところで改行するだけで読みやすさが変わります。台詞のあとが「と彼は言った」ばかりになっていないかも、この段階で見ます。

この段階でよむ「地の文が書けないとき」 →

4. 語

最後に、一語ずつ

直せていないサイン——自分でも一度どこかで読んだ気がする

この言い回しは、別の場面に貼り付けても成立しないか

before 「胸が締め付けられる」「涙が溢れた」が同じ章に3回出てくる

after いちばん効かせたい1箇所だけ書き直し、残りは平易な語に落とす

ここを最初にやってはいけません。構成で消える段落の語を磨くことになります。最後まで来てから、決まり文句と、強すぎる動詞だけを拾って直す。全部を直そうとせず、ここぞの一箇所に絞るのが現実的です。

この段階でよむ「決まり文句から抜け出す」 →

やめどきを決めておく

推敲には終わりがありません。読み返すたびに直したい箇所が見つかるので、回数を先に決めておかないと公開できなくなります。4段階を1周したら出す、と決めてしまうのが現実的です。

直しすぎの側にも危険があります。何度も触った文章は、角が取れて平坦になります。最初に書いたときの勢いや、少し不格好な言い回しが、その作品の体温だったということは珍しくありません。迷ったら直さないほうを選ぶ、という基準を持っておくと止まれます。

読み返し方を変える

同じ画面で何度読み返しても、同じところしか直せません。自分の原稿は、頭の中の情報で補って読んでしまうからです。抜けている説明も、視点のぶれも、書いた本人には見えません。読み方を変えると、この補正が外れます。

  • 声に出して読む。息が続かない一文と、読み間違える箇所が見つかる
  • 別の端末や紙で読む。行長が変わると、段落の重さが見えてくる
  • 末尾から場面ごとに遡る。先の展開を知った状態で読めるので、伏線の過不足が分かる

それでも自分では判断できない部分は残ります。語の段階で「これしか思いつかない」となったら、それは選択肢が1つしかないだけなので、感情表現辞書で比べるものを増やしてください。そもそも何を書きたいのかが定まっていない場合は、語を探しても見つかりません。詰まりの切り分け方は語彙力が足りないと感じたらで3つに切り分けています。

ほかの読みもの

読みもの10本をすべて見る →
その場面に合う言い方が見つからないときはあなたの場面に合わせて、AIが5つの言い換えを解説つきで織ります。
言葉を綾なす →